映画におけるラブストーリーで何が求められているのか─。映画のジャンルに少女漫画の映画化という項目があってもいいほど当たり前になったいま、観客は次なる新しい“何か”を求めている。とびきりロマンチックなラブストーリーや運命の恋、次から次へと障害が立ちはだかる悲恋……もいいけれど、それ以上に求められているのは、心底楽しめるコメディなのではないか。ここ数年の少女漫画原作の映画化で異例の大ヒットを記録している『ヒロイン失格』も心底楽しめるコメディだった。そこで『ヒロイン失格』の原作者・幸田もも子の次なる連載『センセイ君主』に白羽の矢が立ち、まだ連載中だった2016年に映画化の企画が動き出した。臼井Pは「タイトルの強さ、ヒロインの突き抜けたバイタリティと明るさに惹かれました」と原作の魅力を語る。

脚本は映画『ヒロイン失格』に続いて吉田恵里香に依頼。理由はやはりコメディを描くことに長けていることだ。『センセイ君主』は、女子高生と数学教師との恋愛を描いているが、重要視したのは、禁断の恋、秘密の恋ではなく、真っ直ぐに先生に恋をするヒロインを描くこと、原作の持つとびきりキュートでハッピーなテイストと躍動感をそのまま映画に組み込むことだった。「敢えてコソコソさせずに突っ走る感覚を大切にしました。あゆはが追いかける、それを跳ね返す弘光先生、その構図をしっかりと描きたかった」と馬場Pが語るように、原作では3巻(全13巻)で2人はつき合うことになるが、映画では2人の気持ちがどんなふうに近づいていくのか、その恋愛模様を丁寧に描くことを選んだ。観客も一緒に恋することができる=ハッピーになれる映画を目指した。また、脚本の吉田氏の案で、ハートの形をした“ピンクあゆは”が登場するが、そのキャラクターは幸田先生が映画のために書き下ろしている。

『センセイ君主』の面白さのひとつは、クールで無器用な弘光先生と彼に全力で恋するあゆはのコンビ感にあり、竹内涼真と浜辺美波が絶妙に演じている。イケメン数学教師の弘光由貴役は竹内涼真。キャスティングのきっかけとなったのは、連続テレビ小説「ひよっこ」やドラマ「過保護のカホコ」、映画『青空エール』などで見せた確かな演技力とスター性。彼がブレイクする直前に弘光役をオファーした。ブレイクイヤーとなった2017年から現在における彼の活躍は、映画『帝一の國』『ラストコップ THE MOVIE』、ドラマ「陸王」「ブラックペアン」など目覚ましく、そして『センセイ君主』で満を持して映画初主演を飾る。

竹内が弘光先生を演じるうえで大切にしたのは、ドSではないということだった。一見クールに見えるが、内面は真面目で数学好き、人付き合いが苦手、そういった1つ1つの個性をクールさのなかにどれだけ滲ませることができるかが弘光先生にハマるかどうかの決め手となった。「弘光先生はクールで感情の見えにくいキャラクターですが、あゆはとの恋を積み重ねていく心の変化をとても繊細に演じてくれました」と馬場Pも絶賛する。二次元からリアルへ、弘光先生に息を吹き込んだ。

弘光先生を演じるにあたり竹内は、フランス語、ピアノ、数式、ペン回しを習得。なかでもピアノ演奏は下手な設定であるにも関わらず、完璧に弾けるようになってから、わざと下手に弾いているという徹底ぶりだ。また、ペン回しは事前に世界チャンピオンから特訓を受け、「さまるんってさ……もしかして俺のこと好き?」と聞くシーンで、本人は思ったように上手くできなかったと謙遜しているが、さりげなくも美しいペン回しを披露している。

一方、ヒロインの佐丸あゆはを演じるのは浜辺美波。『君の膵臓をたべたい』のヒロインに抜擢され、女優として着実にステップアップしているこの若手女優に託されたのは、誰からも愛されるヒロインを体現すること。クールな弘光先生を思わず笑わせてしまうほどの表現力と魅力とガッツ! どこまで弾けられるか、キミスイのイメージをどこまで壊せるか、新たなステージへ上がることができるのかが彼女の挑戦だった。

浜辺は原作を読み込み、あゆはの表情をとことん研究して撮影に臨んでいる。弘光先生の言動に一喜一憂し表情を変える、顔面筋力とあのテンションに驚かされるだろう。アドリブで笑わせることも多かったという。それは、この映画の前に主演したドラマ「賭ケグルイ」での経験が活かされていた。可愛らしさと狂気の二面性を持つ主人公を演じたことで、こんなふうに演じていいのか! と、彼女のなかでリミッターが外れ、コメディエンヌの才能が開花。幸運だったのは『君の膵臓をたべたい』『となりの怪物くん』に続く3度目となる月川翔監督が『センセイ君主』の監督だったことだ。コメディを演じる面白さに目覚めた浜辺を誰よりも知っている月川監督がコメディエンヌとして成長させた。

あゆはとして常に現場を笑いで包み込んでいた浜辺。印象的なのはやはり金八先生のモノマネだろう。ほとんど笑わない弘光先生が思いっきり笑うそのシーンでは、台本にはない「人という字は、人と人とが〜」という名言を自分で用意し、アドリブで入れている。「カット!」がかかると、竹内をはじめ月川監督も「美波ちゃんすごいっ!」と吹き出すほどだった。ほかにも、あゆはが牛丼を食べていると弘光先生がやって来て隣りに座り、“ミニ”サイズを注文するのは現場で決まった。あゆはが驚いて「(えっ)ミニ!?」と呟く浜辺のアドリブに竹内も応戦。本番では2人で「ミニ?!」「ミニ」と言い合うアドリブを続けた。弘光先生がミニサイズを注文したことにショックを受けるあゆはの様子に、月川監督も「めちゃくちゃ可愛い!」と顔をほころばせていた。

そんな浜辺の弾けっぷりと、それを受ける竹内の安定の芝居がとてもいい。どちらもこれまでのパブリックイメージから大きく外れた新鮮な役でありながらも、この組合せ意外考えられないハマり役、ベストカップルになっている。加えて、撮影時の竹内は24歳、浜辺は16歳、原作で弘光先生とあゆはが出会う年齢と同じであったことも運命的だった。

弘光先生とあゆはのコンビ感だけでなく、あゆは・アオちん・虎竹、この3人のバランス感も『センセイ君主』に欠かせないものだ。あゆはの親友で弘光先生との恋を応援するアオちんこと中村葵を演じるのは川栄李奈。浜辺とは『亜人』で共演していることもあり、最初から息はぴったりだった。アオちんはとにかく爪跡を残すキャラクターだ。「ドキドキときめいたりすんのって二次元だけの話? これがリアルなの?」と、恋がうまくいかないあゆはに向かって「ばーろ、二次元だろうがリアルだろうが、ガチ恋したらムネボンババぼんだっつーの」と捨て台詞を残して去るアオちんを、川栄は絶妙な言い方と間合いで演じてみせた。声を上げて笑ってしまうほどの名シーンになっている。川栄の起用理由について臼井Pは「『嘘を愛する女』でゴスロリ風のやや浮世離れした喫茶店の店員を演じた川栄を見て、何色にも染まれる女優だなと。彼女なら、どんなカリカチュアされた役でも、どこか現実と地続きな人間として演じられる。アオちんというぶっ飛んだ役を担うにふさわしいと思いオファーしました」と明かす。あゆはとのバランス感も完璧だった。

あゆはの幼馴染の澤田虎竹役には佐藤大樹(EXILE / FANTASTICS)が選ばれた。あゆはに恋心を抱いているのに告白できず、弘光先生との恋を見守ってしまう“いい人”虎竹を、佐藤はオーディションで勝ち取った。面談会場に彼が入ってきたときに、月川監督を含めて、その場にいる全員が「彼が虎竹だっ!」と絶対的に感じるものがあり、満場一致で決まった。決め手は、あゆはやアオちんと同様に、同性にも愛される人間力。臼井Pは佐藤の魅力を「少女コミックのなかでは、虎竹のような役どころは必ずと言っていいほど出てくるポジションの役。だからこそ、鮮度と生まれ持った純粋さが必要。佐藤大樹はそれを持っている、本当に虎竹にぴったりでした」と語る。合唱コンクールのシーンのエピソードがある。いたたまれずその場を走り去ったあゆはを追いかけて励ます虎竹の芝居に「こんなにグッとくるなんて……」と、男性スタッフをうるっとさせたのだ。いい奴すぎて恋が実らない男子高校生を、佐藤は爽やかに演じきった。

『黒崎くんの言いなりになんてならない』『君と100回目の恋』『君の膵臓をたべたい』『となりの怪物くん』『センセイ君主』『響 -HIBIKI-』─休む間もなく作品が続いていることからも、月川監督がどれだけ求められている監督であるか、才能ある監督であるかは説明不要だろう。なかでも『君の膵臓をたべたい』は35億越えの大ヒットとなったことで、月川監督の名前は広く知れ渡った。同時にキミスイを越えなければならない暗黙のプレッシャー、定着したキミスイのイメージを塗りかえたい思いも少なからずあったはずだ。正当派の恋愛映画や青春映画を描くことに長けた監督というイメージが強いからこそ、今回の『センセイ君主』の抜擢は、あの月川監督がコメディ? と、意外に思う人も多いだろう。  

月川監督にこの作品を託した理由のひとつには、少女漫画が原作のラブコメディとして、これまでの映画化とは一味違ったものにしたいという制作サイドの挑戦があった。テンポ感のある面白さを追求したコメディのなかで、しっかりとラブストーリーが描けることが必要だったのだ。というのは、あゆはの弾けた演技を弘光先生が受ける、先生のその受け身の芝居と格好良さを、最後までブレずに描くことがラストの感動に繋がるからだ。弘光先生の心情を最初から最後まで一貫して繋げて描ける監督であること、それが月川監督だった。もうひとつのミッションとして、コメディに目覚めた浜辺美波をコメディエンヌとして仕上げてほしい、そんな期待を込めてのオファーでもあった。

とにかく「楽しい気持ちで映画館を後にしてほしい」と、主題歌は映画に負けず劣らずのポップ感、ハッピー感にこだわった。曲は1969年リリースのジャクソン5の「I WANT YOU BACK」。歌うのは、2015年に韓国で結成、2017年に日本でデビューを飾った、アジア発9人組ガールズグループTWICE(トゥワイス)だ。「I WANT YOU BACK」は、大好きな君をどうしても取り戻したいんだ、という切ない恋心をうたった歌詞ではあるが、メロディはポップで楽しくカラフルなイメージ。それをとびきりキュートに歌うことができ、若者たちに届けることができるのは、TWICEしかいないのではないかとコラボレーションが実現した。恋の切なさを吹き飛ばすような、楽しくて踊りたくなるような、笑顔になれるその曲は、弘光先生とあゆはの恋のゆくえを見届けた観客の高揚感をさらに大きく膨らませるだろう。映画館を出ても楽しさが続く、オールディーズでありながらも新しい主題歌になっている。